肩関節の中でも最も可動域が大きく「肩」に影響を与える関節
「肩甲上腕関節」
その評価と考え方についてです。
肩甲上腕関節の本質
まずは大まかな肩甲上腕関節の本質について。
1後・下方組織が固まりやすく、前方に不安定になりやすい
とても当たり前ですが、超重要です。肩関節の大前提。同じ球関節である股関節と大きく違うのは安定性と動き。
肩は臼蓋が骨頭の1/3程度の大きさのため、不安定で、動きが大きい。
また、大人になると腕をあげる機会が減るため、下方の組織が固くなる。前方には筋肉が少なく、後方の筋肉が固くなり、前方に骨頭が変位しやすいのも特徴。
2臼蓋との関係性が崩れた時に障害を引き起こす
これはどの関節でも同じ。関係性が崩れた時に痛みや制限を引き起こします。こっちに動かないで〜というサインを「痛み」で教えてくれます。だからそれ以上は動かさないように体が止めるのです。この関係性を崩さないようにすることが肩関節にとって最重要。
3土台が整った上で肩甲上腕関節を評価する
肩甲上腕関節は肩甲骨と上腕骨からなります。土台である肩甲骨の方が痛みが出にくく、動きを出しやすい。あえて上腕骨から評価する意味はないのです。しっかりと土台を整えると肩関節の問題がグッと減ります
肩甲上腕関節の可動域とは
肩甲骨や脊柱を考えないとこれだけの可動域だけです。
大まかに90度以内での動きが肩甲上腕関節に求められる動きです。
それ以上の動きでの制限や痛みに関しては「肩甲骨」や「脊柱」の影響が大きいと判断することが多いです。
これは評価にも応用ができます。
90度以下で挙上が止まってしまう人は肩甲上腕関節の影響あり。
90度以上で挙上が可能だが制限がある人は肩甲骨や脊柱の影響が大きい可能性がある。大まかな示唆ができます。
あっ肩関節の1st/2nd/3rdポジションの評価がわからない方はこちらで→各ポジション別の評価と制限因子
肩関節を安定させる静的因子・動的因子
1静的因子
関節窩、骨頭、関節唇、関節包、靭帯、内圧
2動的因子
腱板、上腕二頭筋、肩甲骨周囲筋
どちらも大切。
どこの組織にどのような問題があるかを探っていくことが重要です。
静的な因子が壊れている時は要注意。理学療法の適応ではないかどうかの判断も必要になります。
肩甲上腕関節の制限をブロックごとに分ける
いきなり細かい制限因子を見つけようとすると混乱します。
まずは大まかにブロックに分けましょう。
制限となりやすいのは
「肩の上、下、外、前、後周り」
そのブロックにある軟部組織を考えていけば制限因子もわかりやすくなりますね!でも大前提を忘れないで。
「肩は下と後ろが固くなり、前方に不安定性が出やすい」
肩甲上腕関節の操作方法(動画)
肩関節は痛みが出やすく不安定な関節。
だからこそ触り方や動かし方で評価が全くことなります。
相手を最大限りラックスさせ、解剖学的にも安定する位置で
評価・治療を行いましょう。
- 肘屈曲位でレバーアームを短くする。これにより相手の上腕を動かしやすくします。こちら側も肩を操作しやすくなります。
- 肩甲棘面上(軽度屈曲・外転位)で操作。関節包が緩み、痛みが少なく、臼蓋と上腕骨が適合する面で評価します。
- 反対の手でしっかりと上腕骨の動きを確認。これが臼蓋上腕リズムの評価にもなります
肩甲上腕リズムの評価
肩甲上腕リズムを肩甲骨を追って評価する方法もありますがやや難しい。今回は背臥位で評価できる方法をお伝えします。
肩関節90度屈曲位から水平内転させた時の反応を評価
・上に行く→肩甲骨が下方回旋を示唆
・下に行く→肩甲骨が上方回旋を示唆
・そのまま内転→問題なし
臼蓋の向きによって肩の内転が上下します。
これを利用した方法です。やっぱり肩甲骨の評価が大切!
臼蓋上腕リズムの評価
実はかなり複雑に変化する臼蓋と上腕の関係。
単純化してわかりやすいのは林先生の書籍。
これは林典雄先生の整形外科運動療法ナビゲーションより引用。
関節機能解剖学に基づく 整形外科運動療法ナビゲーション 上肢・体幹
まずは前方の突出を感じ取れるように練習しましょう。
というのは周知の事実。
もう一つ大きな役割として
「肩周りの組織との滑走性を出す。」
これが重要です。
肩周りには滑液包があり、この周りの組織が癒着し始めると肩のインピンジメントを引き起こしたり、痛みを引き起こします。
拘縮を防ぎ、動きを良くする意味でもインナーマッスルトレーニングによって滑走性を引き出しましょう。
例)
肩峰下滑液包周りが癒着。棘上筋のトレーニングによって滑走性↑
肩甲上腕関節の「回旋」制限因子の評価
肩関節で問題になりやすい回旋の制限!
教科書にはどの肢位でどの筋肉が制限になるかは書いてあります。
でも臨床上では良く分からない・・という人のために。
4つのポイントで評価しましょう。
1解剖学をしっかり覚える
2動かした時の肩甲骨の代償を見抜く
3制限の予想される筋肉を触診しながら動かす
4筋肉を伸張させて評価・短縮させて評価
肩甲上腕関節の治療戦略
今回は肩甲上腕関節を中心にお伝えしました。
ただいきなり肩甲上腕関節を動かすことがあまりしません。
なぜなら肩甲上腕関節は
「痛みが出やすく、不安定」だからです。
しっかりと土台である肩甲骨周りを整え、胸郭を安定させた上で評価・治療をします。