「股関節の手術をして脚長差があるので高さをそろえるためにインソールを入れましょう!!」
良くあるお話ですが気をつけないといけないことがあります。
単純に足らない脚の長さの分、高さを足す・・ だけではナンセンスです。
脚長差を修正することで患者さんを悪くしてしまうこともあるのです。
THA術後に問題となりやすい脚長差について考えてみましょう
補高は短縮した分をプラスするとうまくいかない。
理由は骨盤の側方移動・回旋・捻じれがある状態で補高すると腰椎カーブか増大してしまうため。
短縮した分ではなく、姿勢や他の関節とのバランスを評価することが大切。
— 吉田直紀〜理学療法士〜 (@kibou7777) 2018年4月21日
機能的・構造的脚長差について
脚長差には2つの分類があります。
- 構造的脚長差(骨格構造の短縮や人工関節のコンポーネントの位置不良による脚長差)
- 機能的脚長差(アライメントや筋の短縮による脚長差)
この2つの脚長差が合わさって主観的な脚長差になります。
「あれ・・足が長い・・短い」といった具体に訴えてきます。
セラピストとしてはどちらの影響で何が原因でその主観を訴えているかを評価することが大切になりますね!
データ的には構造的な脚長差よりも機能的な脚長差の方が主観的な足の長さに影響すると言われています!
まずは脚長差をさっくりと動画で理解
脚長差があるとどんな悪影響があるの?
これは 色々なデータがあります。
- 歩行時のエネルギー効率が低下する
- 2cm前後の脚長差でも骨盤の上下方回旋に影響する可能性もある
- 歩行時、短い下肢の膝内側コンパートメントにストレスが加わる
- 歩行によって両側の股関節外転筋の過剰な活動が起こる
などなど。
単純に足の長さが異なることで他の関節への影響は非常に大きくなるということは覚えておきましょう。
3cmの脚長差の影響は?
一般的には構造的な3cmの脚長差以内では著明な跛行は生じないと言われている・・
これを鵜呑みにしないようにしましょ(^ ^)
臨床では脚長差以外にも筋肉のアンバランス、下肢のアライメントなどの影響もあるため3cm以内でも跛行が生じることもあります。文献的にもそのようなデータはたくさんありますし、実際の臨床でも多く経験しますね!いつだって単純に考えず、総合的に臨床の現象を捉えましょう!
THAの脚長差と悪い運動学習
股関節の手術で最もメジャーなのがTHA。→詳しいTHAの評価方法はこちらから
THAを行う人は高齢者の大腿骨骨折や変形性股関節症などが多いです。注意するのは変形性股関節症です。
変形性股関節症は長い間をかけて股関節の大腿骨や骨盤の臼蓋形成不全が起こり疼痛を引き起こします。大前提として長い間かけて変形してきた疾患は、それに対応するようにアライメントも変化していきます。
変化していく股関節に体幹や骨盤が対応して悪いアライメントになります。そして悪いアライメントが運動学習されていくのです。ここがミソです。。
「悪いアライメントのまま運動学習されていく」
このまま足りない脚長差を補正するとどうなるでしょう・
脚長差の補正はいつするべき?
これは主観があるのでご自由に解釈してください(^ ^)
「足らない長さの分を足す」…というのはあまりにも短絡的。THAをするときに医師は様々なことを考えて脚長補正しています。中殿筋の長さや座骨神経の伸張ストレス、臼蓋の形などなど。
脚長差を補正するときには必ず医師と相談してください。加えてセラピストの姿勢や動作分析と患者さんの主観的な感覚も重要。
また、大切なのは補正する「時期」です。
術後早期は上記したように長い間の悪いアライメント運動学習が残っている状態です。私の個人的な見解ですがいきなり環境変化をあたえるのでは無く、身体環境の変化が落ち着くまでは物理的な高さの補正をしない方がオススメ。
なぜならほとんどのTHA術後の脚長差は時間が経つにつれ修正されるから。焦って早期にいきなり高い補正をするのはちょっと怖いですね。だからこそ機能的な脚長差を変化させることが術後に求められます。
機能的脚長差とは脊椎や骨盤、下肢の拘縮の代償によって生じるものとされています。まずは我々セラピストが得意な筋バランスを整えることが最初のステップ。
構造的脚長差の評価
構造的な脚長差の評価としては棘果長(以下SMD)と転子果長(以下TMD)を計測する必要がありますね。
- SMDは左右差あり・TMD同じ→大転子〜ASISの間に問題がある
- SMDは同じ・TMD左右差あり→このパターンはないはず
- SMD・TMDどちらも左右差あり→大転子〜内果の間に問題がある
- SMD・TMD左右差なし→問題なし
長さの違いから臨床を推論することが大切になる。
機能的脚長差の評価
研究としてわかっていることは
「股関節の内転可動域が脚長差に影響する」
と言われています。
外転筋の短縮により内転可動域が低下し、骨盤の傾斜から脚長差を引き起こすからです。(つまりこれに関与する関節にも差が出るということです。腰椎とかも)
さらには構造的な脚長差よりも機能的脚長差の方が自覚的脚長差に大きい影響を与えるとも言われています。つまりセラピストのROMやMMT、歩行や姿勢分析から見た機能的な脚長差は重要な評価になるということです。
では実際にどこを評価すれば良いのかお伝えしていきます!!
1骨盤のアライメント
多いのは挙上や下制している場合。脚の長さを補うために骨盤の傾きで自己修正している方が多いです。腰方形筋の短縮や股関節内転筋・外転筋の短縮に目を向けてみてください。
2腰椎のアライメント
骨盤の運動連鎖で、腰椎にも捻れのストレスが加わります。側屈や回旋もよく見て評価しましょう。術前の腰椎の運動幅が小さいと術後の自覚的な脚長差に影響を与えます。しっかりと腰椎の動きを確保しておくことが大切です。
3膝関節の伸展制限
大腿直筋やハムストリングスの影響で膝伸展制限がある場合も単純に脚の長さが短く感じます。
4股関節の伸展制限・内転制限
術後早期は脹れの影響もありこの2つの制限が生じやすいです。術後の脹れが引いてくれば制限も改善されやすいです。
5足関節の内反・外反
距骨下関節が内反になると脚が長く感じ、外反になると短く感じます。多くの場合骨頭が扁平化して脚が短くなるので代償として脚関節の内反で補正する人が多いです。この足関節の補正は1.27cmまでであれば可能です。だから距骨下関節の回内・回外テーピングだけでも歩行が変わる人はたくさんいますよ。
まずはこの機能的な問題を解決してみてください。運動感覚が変わり脚の長さの感じ方も変わりますよ。
→もっと脚長差を下肢全体から評価・治療を考えたい人はこちらから
まとめ
- THA術後早期に脚長差の修正は基本的に焦らない
- 機能的な脚長差を修正してからインソールなどの環境変化によるアプローチを考える(時期も考え医師と相談)
- 機能的な脚長差の問題は、たくさんの関節を評価する必要がある。(股関節、骨盤、脊柱、膝、足関節)総合的に判断して補正をする
では明日から股関節疾患をよく評価してみてくださいね。
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