トレンデレンブルグ歩行は中臀筋の筋力低下だと方程式のように覚えていたことがあります。
理学療法士の皆さんなら必ず壁にぶち当たる問題「あれ、中臀筋MMT5あるのにトレンデレンブルグ歩行が変わらない・・」
これは2つの理由があります。
- 1つは正しく中臀筋トレーニングができていないこと
- もう1つは中臀筋以外の原因に気づいていないこと。
この記事が誰かのトレンデレンブルグ歩行の改善につながればと思います。
トレンデレンブルグ歩行とデュシャンヌ歩行
では教科書的な部分から。
- トレンデレンブルグ歩行とは立脚側と反対側の骨盤が下制すること。(厳密には前額面上だけでなく水平面上の回旋も起きています。患側の股関節の内転と外旋)
- デュシャンヌ歩行はトレンデレンブルグ歩行の状態から立脚側に体幹を傾けることです。(これにより筋肉や靭帯の作用が少なく骨性の支持ができるため)
文献的には→トレンデレンブルグとデュシェンヌ歩行の関係性について
どちらも一般的には股関節の外転筋力の低下が原因。と教科書にも書いてあります。
変形性股関節症に人によくみられる歩行の形。でも実際はどうでしょう?
教科書通りのトレンデレンブルグ歩行で股関節の外転筋力トレーニングを継続しても・・・「あれ、変わらない。」と感じている人は多いでのはないでしょうか?
トレンデレンブルグ歩行と中臀筋弱化の関係
文献的にはトレンデレンブルグ歩行と中臀筋の弱化についてみてみましょう。
今わかっていることは
- トレンデレンブルグ歩行陽性群と陰性群の中臀筋のトルク値に差はない
- 中臀筋の立ち上がり時間の遅延がある
- 萎縮に関しては大臀筋、中臀筋、小臀筋、腹直筋に萎縮率が高い(変形性股関節症の人)
- 股関節内転筋は遠心性収縮がかかりトルク値が高い
- 股関節内転角度が5度以下の場合は跛行が起こりやすい
などなど。
臨床上で考えるとふむふむ。といったかんじ。
だから文献的にも単純に「中臀筋弱化=トレンデレンブルグ歩行」ではないということ。中臀筋のトレーニングだけしても大きく変わらないのは当たり前の話なのです。
中臀筋トレーニングがうまくできない2つの理由
それでも中臀筋が働くことは確かに重要(特にMMT3以下の人)股関節屈曲時に大腿骨を内旋方向に滑り込みしてくれる筋肉ですからね。ではではそのトレーニングについて。
トレンデレンブルグ歩行が現れている人は股関節や骨盤のコントロールが苦手。その状態で使ったこともない中臀筋を使おうとしても難しい。そう。まず中臀筋トレーニング自体が難しいということを理解しておきましょう。健常人でもうまくできる人は少ないです。
理由は2つ。
1つ目支持基底面が狭い(側臥位のため)
側臥位自体が支持基底面が非常に狭いです。そのため体幹を支える筋力が必要になります。(特に回旋の力を止める筋力)股関節を外転させた時点で体がフラフラしている人はトレーニングの難易度を変えるか、基底面を増やすように工夫しましょう。2つ目は代償することが容易
体幹が固定できていない時点で必ずどこかで代償を起こします。手でベッドを思いっきり把持したり、骨盤の挙上で代償したり、体幹の側屈をさせたりします。大切なことは中臀筋を的確にトレーニングすること。代償動作で中臀筋トレーニングを100回やってもあまり効果はありません。
正しい中臀筋トレーニングの方法
1側臥位を安定させる(下の膝・股関節を屈曲、手を軽くベッドについてもらう)
2頸部の位置を安定させる(枕の位置の調整。脊柱がまっすぐになるようにする)
3骨盤の下制を作る(腰方形筋の代償を抑える)
4ドローインの状態を作る(骨盤の位置で働く筋肉が変わるため)
5骨盤や体幹が崩れない範囲で股関節を外転
※応用としては股関節の位置を変えたり、収縮方法を変えてみる。他にもトレンデレンブルグ歩行改善には中臀筋が働く反応速度を高めることが大切とも言われています。
ゆっくりとしたトレーニングだけでなく早めに筋を動かしたり、OKCだけでなく、CKCで行うようにするのもGoodです。歩行中のトレンデレンブルグなのでCKCでの学習は効果的。
例えば股関節伸展位にしてみたり、内転位での収縮にしてみたり。患者さんの状態に応じてトレーニングさせる部位や収縮や位置関係を変えてみよう!
トレンデレンブルグ歩行に必要な中臀筋の要素
では少し詳しく。トレンデレンブルグ歩行に必要な中臀筋で分かっていることは?
- 荷重応答期の速筋繊維の活動低下
- 求心性収縮でかつ股関節の伸展域での発揮が重要→歩行における中臀筋の求心性収縮
がわかりやすいですね。だから中臀筋を高速度でトレーニングをしたり、伸展域で小さく求心性収縮させてみたりすると効果的。と言いたいところですが。
これも個別性があります。
人それぞれなので、評価して治療やトレーニングをした後に変化がどう出るかを常に捉えましょう!
トレンデレンブルグ歩行の中臀筋以外の問題
まあこれがたくさんありますwこれが中臀筋だけ鍛えていてもトレンデレンブルグ歩行が改善しない大まかな理由です。
簡単に箇条書きしてみますね。
- 中臀筋以外のマッスルバランス不良(大臀筋、大腿筋膜張筋、外旋筋、腸腰筋など)
- 脚長差(ただ長さを合わせるだけではダメ)
- 体幹の筋力低下(腹横筋や多裂筋)
- 体幹周囲の軟部組織の硬さ(腹直筋が硬くなりやすい)
- 股関節のインナーマッスル筋力低下(腸腰筋・深層外旋六筋)
- 股関節、腰椎、骨盤の可動域制限
- 痛み
- 骨盤のマルアライメント(骨盤の位置によって使われる筋肉が変わる)
- 腰椎の側屈
- 脊柱全体の側弯
- 足関節の可動域制限
などなど。
ん〜もうこれは個別性がありすぎて症例をみないとなんとも言えません。ただ実際の文献においても「中臀筋トレーニングだけでは骨盤と体幹の側屈角度に変化は認められない。(疼痛改善と筋力発揮には中臀筋トレーニングが有効)」というデータがあります。
ただ理解してほしいのは中臀筋以外にもたくさん要因があるから1つ1つ丁寧にみていこうねってことです。→人工関節はどうなのって人はこちらから
ちなみに変形性股関節症の人はこんな感じのアライメントになりやすい↓
股関節の筋力低下や疼痛に対する代償的な対応の方法がこれ↓
股関節は伸展位よりも屈曲位、外旋よりも内旋位、内転よりも外転位で接触面積が大きくなり応力が低下する。
— 吉田直紀〜理学療法士〜 (@kibou7777) 2017年1月3日
骨頭の被覆率
股関節を評価する上では重要になります。
- 骨頭の被覆率が高い=安定=骨盤前傾
- 骨頭の被覆率が低い=不安定(圧が集中)=骨盤後傾
こんな感じです。機能解剖的に考えると臼蓋の後方は深く、前方は浅い。だから前傾すると後方の深い部分が骨頭を覆い、後傾すると前方の浅い部分での股関節荷重になるわけです!
もちろん骨頭の被覆率は高いほうがいいですが、骨盤前傾でロックされて動かないことも問題になります。(臨床上は仙腸関節の硬さが問題になりやすい)
トレンデレンブルグ歩行の原因を見つける評価
大前提をまず知って欲しいので書いておきます。大腿骨と臼蓋との適合性が悪くなると痛みや可動域制限や筋力低下を引き起こします。つまりこのボールアンドソケットの関係がよければトレンデレンブルグ歩行も改善すると考えてください。(大まかに)
手順を追って1つ1つ丁寧にみていきましょう
- 静的な骨盤や腰椎・股関節のアライメントを評価
- 軟部組織の硬さ、アライメントを評価
- 代償を減らしてMMTでさらに詳細に評価
実にシンプルにしました。でもこれができないというとか、見逃してしまう人が多いです。いきなり股関節の手技的なことやトレーニングをやるのはちょっと短絡的。
しっかりと原因を突き止めたらシンプルな運動療法を組んでみましょう。→歩行をシンプルに捉えたい人はこちらから
トレンデレンブルグ歩行大まかにまとめると・・
・局所の問題(中臀筋の弱化)か局所以外の問題か
・トレーニングの難易度や選択が正しいか
・先入観をなくしてい個別性をみて評価、治療を進める
ですね。いつも通りです。考えて、繰り返し評価・治療を淡々と進めましょ。
股関節だけでなく足や膝関節も本質を捉えることが大切!!