股関節の可動域制限って難しいですよね?
その理由は肩関節と似ていて。
- 球関節で3軸で動く
- 屈曲位と伸展位で筋肉の作用が変化する
- 筋肉が複雑に絡み合っている
この辺りが可動域制限を評価するためにとても困る_:(´ཀ`」 ∠):
というわけでめちゃくちゃしっかりまとめてみたいと思います。
球関節のメカニカルストレスの逃げ道はたくさんある。
だから肩関節も股関節も痛みの逃げ道はたくさんある。
— 吉田直紀〜理学療法士〜 (@kibou7777) 2018年2月26日
股関節運動と大腿骨の副運動
股関節の運動と大腿骨の運動は上記の通り。問題となりやすいのは大腿骨の後方滑り。これは肩関節と同じで後方組織がタイトになりやすい。
大腿骨の後方には外旋筋群がべったり付いている。
外旋筋を緩めることで大腿骨が後方移動できるようになり、骨頭の副運動が正常化することが多い。
<肩関節と股関節が似ているところ>
・同じ球関節
・土台が肩甲骨と骨盤
・後方組織が硬くなる
・どちらも前方変位する
・どちらもインナーマッスルがあるなどなど。安定性だけは唯一違うけれど。
— 吉田直紀〜理学療法士〜 (@kibou7777) 2017年10月20日
股関節屈曲可動域制限まとめ
大腿骨盤リズム
屈曲制限を知る前に股関節屈曲時のバイオメカニクスから。股関節には骨盤の動きと腰椎の動きがセットになる。
- 股関節屈曲10度までは骨盤の前傾運動
- 股関節屈曲10〜90度の間で骨盤後継運動1度に対して股関節屈曲6度の割合で変化
と言われている。
だから骨盤の動き自体が制限されると股関節屈曲の可動域制限に影響してしまうのだ。
腸腰筋と大腿直筋のリズムの関係
これには理由がいくつかある。
- 骨盤後傾位での姿勢保持(骨盤の前方並進運動も伴う)
- sway back posture
- 膝関節優位の姿勢戦略
などなど。
それが股関節の屈曲とどうつながるかというと。
- 大腿直筋の過緊張→骨盤後傾→骨盤大腿リズムの制限
になりやすい。
また結果的に腸腰筋を使用した股関節屈曲が行われない→→インナーマッスルである腸腰筋は萎縮して固くなることが多い。
股関節屈曲制限因子
- 大臀筋、中臀筋
- 股関節前方組織(腸腰筋、大腿直筋、縫工筋、大腿筋膜張筋、鼠蹊部周囲の軟部組織)
- 梨状筋
- 大腿方形筋
- 広背筋
などなど。おそらくもっと考えれば上がるが主な因子としては上記の通り。
まずはしっかりと股関節の外旋筋を緩める。次に股関節前面筋を緩めることがポイント。
股関節屈曲制限因子のスクリーニング
こんな感じ。
自分の臨床経験から考えた優先順位は
- 後方組織の硬さを改善する(股関節外旋筋群、大臀筋、中臀筋)
- 鼠径部前方組織の硬さを改善する(腸腰筋、大腿直筋、縫工筋、大腿筋膜張筋)
- この時点で多くの可動域制限は改善することが多い・・・
- 大臀筋や中臀筋は筋腹よりも腸骨稜と大転子部に癒着が起こりやすいのでここを改善する
- 寛骨の問題であれば骨盤の後傾制限になる広背筋などをリリース
といった感じ。
どうやら単純な股関節のストレッチだけでは組織の癒着は改善しない。だから徒手的に組織の癒着や滑走不全を剥がすことが第一。
柔軟性を維持させるためにストレッチや筋トレを行うと効果が持続する。
1年目のときにはhip OAの人に対して
・股関節周りのストレッチ
・股関節周りの筋トレばかりをしていた。でもそれだけでは効果が微妙だった。
今は大腿骨についている細かい軟部組織のリリースと筋膜ラインを利用したピラティスを使うことでかなり動きが変わると実感。
— 吉田直紀〜理学療法士〜 (@kibou7777) 2018年2月26日
股関節屈曲制限に対する運動療法
自分がよくやるのはこの2つ。
腸腰筋エクササイズは骨盤前傾から股関節の屈曲を行うだけ。その際に骨盤の前傾を保ちながら行うと腸腰筋の求心性収縮を促すことができる。さらに腸腰筋を使うことで大腿直筋を抑制することもできる。
大腰筋の走行は大腿骨の小転子〜腰椎・胸椎横突起に着くので大腿骨を前方からガイドする役目を担う。股関節のインナーマッスルとしても腸腰筋は大切。
骨盤後傾エクササイズは膝を抱えて骨盤〜脊柱を丸くするだけ。これは骨盤前傾でロックしている症例に対して行い、骨盤の可動性を引き出すのが目的!
どちらのエクササイズも症例に合わせて難易度を変化させてみてね。
股関節伸展制限まとめ
- 腸腰筋
- 大腿直筋
- 縫工筋
- 大腿筋膜張筋
- 腹直筋(間接的に)
まとめると股関節前面の問題がほとんど。さらにここには筋肉だけでなく大腿動脈・静脈・神経・滑液包があり互いに癒着して制限を起こすこともある。
筋膜の連結でいうと、腹直筋あたりもかなり問題を引き起こす。
腹部と股関節前面はセットで伸展制限の評価として捉えよう。
腹直筋鞘はあらゆる方向へ動かされる。
腹直筋トレーニングで体幹を屈曲する運動ばかりやるのは腹直筋鞘の対応力を失う。
要はお腹が伸び縮み色んな方向に動くことが大切
— 吉田直紀〜理学療法士〜 (@kibou7777) 2018年2月24日
皮膚・皮下組織・浅筋膜・脂肪・深筋膜などの層ごとに分けても評価する必要がある。
股関節屈曲制限のスクリーニング
整形外科テストであればトーマステストを応用して検査してみよう。
- 股関節屈曲→検査側の股関節が外転→大腿筋膜張筋が制限因子
- 股関節屈曲→検査側の膝関節が伸展→大腿直筋が制限因子
- 股関節屈曲→検査側の股関節が屈曲→腸腰筋が制限因子
と示唆することができる。あくまで整形外科テストだけでの評価。これに触診を加えて客観性を増すことがポイントです。
加えて有用なのは触診。1つ1つの筋肉を丁寧に触診すると制限因子がわかりやすい。
ポイントは股関節前面の起始部(ASISや恥骨部など)。筋腹よりも制限されることが多い。丁寧に起始部をリリースすると伸展可動域が拡大する。
股関節伸展制限に対する運動療法
- 側臥位から股関節伸展運動を行い腸腰筋の遠心性収縮を起こす運動
- ブリッジ運動時に膝関節を内転させたまま股関節最終伸展域まで行う
どちらも非常によく使うし効果的。股関節伸展運動を行うことで股関節前面筋を相反抑制することができて臀筋を鍛えられて一石二鳥。ただ腰椎の代償が出やすいので注意。
理由は股関節疾患は股関節伸展を行うと腰椎部に運動軸が偏位する傾向がある。だから体幹の固定性はとても大切。
どちらの運動も「体幹を固定させた状態→股関節単体の運動を行う」ことが大切。
学校の教科書にあるような腹臥位姿勢からのトレーニングはかなり難しい。なぜならほとんどが体幹を固定できずに腰椎を支点とした運動になるから。
でも評価としては使えます。
体幹を固定させた状態で股関節伸展運動がどこまでできるかという評価。
股関節内転・外転制限まとめ
股関節内転制限
- 中臀筋
- 大腿筋膜張筋
がほとんど。特に赤印で示している腸骨稜部分がタイトになりやすい。
3次元で見ると大臀筋・中臀筋・大腿筋膜張筋が重なる部分があるのでそのあたりを丁寧にほぐしてあげよう。
内転制限が起こると荷重した時に大腿骨へ垂直荷重ができないので骨頭への負担が大きくなる。もちろん外転制限も同じ。
股関節外転制限
- 恥骨筋
- 長内転筋
- 薄筋
- 大内転筋
いわゆる内転筋群が問題となる。外転制限で内転位接地になってしまうと、骨頭の外上方のストレスが強くなり変形を助長してしまう。1つ1つの内転筋が滑走不全を起こしてしまうので、筋肉と筋肉の境目をリリースするように治療していこう!
hip OAの外転制限は早めになんとかしたい。
内転位での接地は骨頭を外上方へのストレスを高めやすい。「じゃあ単純に外転方向へストレッチしよう!」は結構痛みが出やすい。
Hold&relaxやスリングなどが痛みが出にくい。徒手であれば起始停止部からしっかりとリリースすると可動域が広がりやすい
— 吉田直紀〜理学療法士〜 (@kibou7777) 2018年2月25日
内転筋のスクリーニングとしてはこんな感じ。
股関節内旋・外旋制限まとめ
股関節内旋制限
股関節外旋制限
という感じです。
回旋制限の難しいところは筋肉の作用が屈曲や伸展で変化すること。
股関節外旋筋の知っておいてほしいこと
- 梨状筋は中間位では外旋作用・屈曲60〜90度以上では内旋作用に変化
- 内閉鎖筋・上・下双子筋は3つでトライセプスになっていることがある
- 内閉鎖筋は骨盤底筋と筋連結がある
- 坐骨神経は上から梨状筋、下から内閉鎖筋が圧迫されることが多い
などなど。深層にある股関節の外旋筋は非常に大切な役目がある。
適切に触診できるようになり、機能を理解しておこう!
さらに詳しい股関節の機能解剖や評価治療は・・
こちらのnoteで1万字以上で動画1時間以上で説明しています↓
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