グローインペイン症候群とは鼠径部周辺に痛みを生じるスポーツ傷害。
これがとても厄介。
診断が難しい上に要素が複雑に絡んでいる。特にサッカー選手に多く罹患期間も長いのが悩みのタネだ。
というわけでグローインペイン症候群の評価・治療までまとめてみようと思う。
選手やトレーナーさんに向けて(^ ^)
グローインペインってどんな疾患?どんな人がなる?
運動時に鼠径部周辺に痛みを引き起こす症候群。
主に体幹・下肢の可動性や協調性、筋力低下が問題になることが多い。
グローインペイン患者の約7割がサッカー選手であるという報告もある。
- キック動作時に屈曲・内転発揮トルクが大きい
- 骨盤の回旋範囲が狭い
- 胸郭が硬い
- 腰椎と股関節伸展範囲が狭い
- 軸足の股関節外転筋力が弱い
つまり骨盤や胸郭が硬くて伸張反射を利用したキック動作ができないために「股関節屈曲・内転」の負荷が上がってしまうということ。
どのあたりが痛むのか?
- 鼠径管領域74%
- 大腿部近位内側76%
- 陰嚢周囲42%
- 大腿近位内側21%
- 下腹部9%
とこんな感じに広い領域にわたって痛みが生じる。データによりばらつきはあり。
鼠径部痛の分類 Groin Triangle
Groin Triangleとは
- ASIS
- 恥骨結節
- 3G point(ASISと膝蓋骨上極を結ぶ線の中点)
この3点を結んだ三角形のことを指す。この三角形の上方・中央・内側どの位置に痛みがあるかを評価してい病態の識別を進めていく。
Groin triangle上方の病態
- 外腹斜筋腱膜断裂
- 鼠径ヘルニア
- 腹直筋腱炎
- 腸骨下腹神経・腸骨鼠径神経絞扼
などがあげられる。
※鼠径管は前・後・上・下壁に分かれる。
前壁:外腹斜筋腱膜と内腹斜筋。
後壁:腹横筋筋膜と鼠径鎌。
上壁:内腹斜筋と腹横筋
下壁:鼠径靭帯
Groin triangle内側の病態
- 恥骨結合炎
- 内転筋損傷
- 閉鎖神経絞扼
恥骨結合炎には腹直筋が上方・長内転筋が下方にストレスをかける。どちらからの筋肉の柔軟性を向上して恥骨部の痛みが軽減すれば良し。
Groin triangle中央の病態
- 腸腰筋損傷
- 股関節病変
つまり、股関節周囲の病態も鑑別しないといけないという複雑さ(^ ^)
なので画像所見や問診、整形外科テストの正確性は重要っす。
グローインペインは類似疾患が多すぎるという難点
何が難しいって、似ているような疾患がたくさんあり、複雑に絡んでいるから。
例えば
- 股関節関節唇損傷
- 関節軟骨損傷
- 大腿骨頭靭帯損傷
- 仙腸関節痛
- 大転子滑液包炎
- 内転筋肉離れ
などなど。もっとある。股関節〜骨盤〜体幹が絡むと病態が一気に増える。
だから明確な診断が重要なので、医師の診断力は大切(^ ^)
グローインペイン症候群の治療方針(保存)
グローインペイン症候群はまず保存療法で経過をみることがほとんど。
大まかな治療方針は
「股関節・骨盤・体幹周りの筋力低下、拘縮、痛みを改善すること」になる。
うん、大雑把だ_φ( ̄ー ̄ )
大雑把にストレッチや筋トレしてもあまり変わらないのがぼくの臨床上の経験。
どれだけ機能解剖学的に評価・治療を進められるかがポイント。
グローインペインは原因と結果を分けること
大切なことはグローインペインになった原因と結果を分けること。
多くの場合は
- 原因:股関節に負担のかかる体の状態(背骨、股関節の可動域低下・筋力低下)
- 結果:股関節周りの痛み
になりやすい。特に上半身の問題を見逃す人が多い。
上半身の捻りがサッカー選手には必須であることを理解しよう。
グローインペインで見落としやすい問題点は「上半身」
なぜグローインペインになるのか?その原因は股関節や骨盤に頼ったキック動作が問題になる。
じゃあさらにその問題は?
脊柱の回旋や肩甲骨の動きが制限されていることが非常に多い。
ここを修正した動きの獲得が必須 pic.twitter.com/iEJd0AUsUj
— 吉田直紀〜理学療法士〜 (@kibou7777) 2018年3月26日
グローインペインの評価する前に大切なこと
まず大まかに評価しよう↓
まずアライメント評価からやってみよう。
触診ポイントは
- ASIS(上前腸骨棘)
- 恥骨結合
- PSIS(上後腸骨棘)
- ILA(仙骨下外側角)
- 尾骨
このあたりは完全に触診できるようにしておくこと。じゃないと骨盤のアライメントがわからない→マルアライメントがわからないことになる。つまり寛骨・仙骨・恥骨・尾骨がどうなっているのかを理解することが大切。
グローインペインになりやすいマルアライメントは
- 大腿骨頭の前方偏位(股関節外旋筋のタイトネス)
- 股関節前面タイトネス(鼠径靭帯周囲の軟部組織のタイトネス)
- 骨盤のアンロック(仙骨カウンターニューテーション)
- 胸郭・胸椎・腰椎可動域低下
などなどがあげられる。あくまで一例。
ケースバイケースでいろんな場合があるのでその都度評価しよう。
グローインペインのための骨盤・股関節の評価
まずはサクッと動画で理解してほしい。思いっきり専門家向けなので、選手は気にしないでほしい。
では1つずつみていこう。
1恥骨
恥骨のマルアライメントに関しては触診だけで評価はやや不十分。個体差が大きく誤差があるため。恥骨の評価としては臨床上は開排動作を評価すると良い。
- 開排動作を評価
- 恥骨のアライメントを修正した状態でもう一度開排動作を評価
- 可動域が広がっていれば恥骨の問題
と考えよう。
ちなみに恥骨に付着する筋肉として下方に恥骨を引き下げるのは
- 恥骨筋
- 薄筋
- 長内転筋
- 大内転筋
上方に引き上げるのは
- 腹直筋
- 外腹斜筋
が問題になる。ただのストレッチだけではダメ。起始停止部分の癒着が強いため、その辺りをリリースすると効果的。
2寛骨
寛骨の評価はASISとPSISを触診するのが最初。基本的には左右差がない方が良い。これも恥骨と同様の評価で
- 開排動作を評価
- 寛骨の左右差を修正して開排動作を評価
- 可動域が改善していれば寛骨の問題
なんとなく気づいた人もいると思うが、開排動作じゃなくてもOK。立位からの前屈や後屈などの評価でもよし。開排動作はアライメントを徒手的に修正してすぐに変化がみられるので、その評価方法を選択しているだけです。
寛骨に付着する筋肉はたくさんある。
- 広背筋
- 大臀筋、中臀筋、小臀筋
- 大腿筋膜張筋
- 縫工筋
- 大腿直筋
- 腸腰筋
これらのマッスルバランスが変化すれば寛骨が左右差を生む。例えば縫工筋が短縮すれば同側の寛骨は内旋するし、広背筋が短縮すれば前傾に誘導されたり・・その辺りを細かく評価してみよう。
3仙骨
仙骨は主に
- ニューテーション→仙骨のうなづき運動・寛骨の後方回旋
- カウンターニューテーション→仙骨の起き上がり運動・寛骨の前方回旋
に分かれる。大まかにニューテーションの方が安定して良いと覚えておこう。
ニューテーションを制限する因子としては
- ハムストリングス・大臀筋の柔軟性低下
- 多裂筋の筋力低下
などが問題になる。
4尾骨
尾骨周囲の軟部組織の癒着も問題になりやすい。
特に尾骨を左右へ牽引する筋肉としては大臀筋の短縮が示唆される。
グローインペインの治療戦略
では具体的に治療をどうするか?順序はこんな感じです。
- 病態を把握
- 1つ1つの筋肉の硬さを改善・骨盤のアライメントを改善
- 動き全体、動きの癖を変える
- 筋トレを指導(自体重)
一番大切なのは骨盤周囲のアライメントを適正に負荷のかからない状態にすること。
では詳細にどんな身体コンディションを作ればいいかというと
- 胸椎の伸展可動域UP
- 胸郭の拡張
- 骨盤の回旋可動域UP
- 腰椎・股関節伸展可動域UP
- 股関節外転筋、内転筋筋力UP
- インナーマッスルの腸腰筋・外旋筋の協調性UP
- 体幹と下肢のの協調性UP(クロスモーション)
といった感じです!
グローインペインのセルフケア
いづれもセルフで出来るものだけをピックアップしたので選手やトレーナーさんに実践してほしい。
- 大臀筋のリリース
- 中臀筋のリリース
- 内転筋のリリース
- 腹直筋のリリース
- 骨盤の動きの改善
触診が細かくできるトレーナーさんであれば1つ1つの筋肉の間と起始停止部をリリースするとより効果的。
筋肉が重なり合うところもリリースする場所になる。
次にストレッチを加えてみよう。一般的なストレッチなのですぐに出来るはず。予防にも取りれてほしい。
大切なことは股関節単体だけのストレッチはだめ。原因は上半身〜下半身の連携ができていないことだから。
つまり上半身〜下半身を繋げたストレッチを行うことがポイントになる。
例えば以下のような動画のストレッチの時に上半身を動かして同時にストレッチしたりも効果あり↓
最後に動きのチェックをしてみよう。
- 股関節の可動域
- 骨盤の動き
- 姿勢
- 動きの癖
- 筋力チェック
などを総合的に判断してスポーツ復帰を判断しよう。
グローインペインのまとめ
- グローインペインに関わる病態を理解しておこう
- 骨盤周囲の骨指標は適切に触診しよう
- 股関節周囲の軟部組織は筋肉1つ1つを触り分けられるようにしよう
- マッスルバランスを改善しよう
長期化しやすく複雑な病態。だからこそ1つ1つを丁寧に評価・治療をしていくことが大切。
少しでもお役にたてば!